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1946年6月、フランス人女性のマリー(サンドリーヌ・ボネール)は、ロシア人の夫アレクセイ(オレグ・メンシコフ)、息子セルゲイ(ルーベン・タピエロ)とともに、ソヴィエト行きの客船に乗り込んでいた。スターリンの恩赦によって、西側に亡命していたロシア人にソヴィエトのパスポートが交付され、帰国が許されたからだ。船上では、祖国への郷愁と、戦後のソ連再建に加わることができるという人々の、未来への希望に満ちた祝宴が開催されていた。
しかし、彼らの期待は裏切られた。オデッサの港には軍人たちがあふれ、厳戒な雰囲気が立ちこめていた。下船した家族たちは、何の理由もなくKGBによって引き裂かれ、逆らおうものなら容赦なく兵士に射殺されてしまう。マリーたちも例外ではない。マリーは秘密警察にパスポートを破られた挙句、「イギリスのスパイだろ?」と厳しい尋問を受け、暴行された。一方のアレクセイは、マリーとセルゲイと暮らすことを条件に、キエフの共同住宅に送られることを受け入れる。西側から帰国した人々が、ことごとく処刑されるか強制収容所送りとなる運命なのに対し、彼らの一家がかろうじて難を免れたのは、優秀な若い医師アレクセイを、ソ連政府が西側に対するプロパガンダとして利用できると判断したからだった。
彼らに自由はなかった。5世帯が暮らす共同住宅は、私生活はつつぬけで、厳格な規則でがんじがらめになっている。しかも、住人にとって外国人であるマリーの行動は一挙手一頭足まで監視されていた。ある夜、管理人のおばあさんがKGBに連行される事件が起きる。かつて家庭教師からフランス語を習っていた彼女が、ウォッカを飲み交わしながら、マリーとフランス語の歌を歌っていたのを、住人に密告されたからだった。彼女の孫のサーシャ(セルゲイ・ボドロフ・ジュニア)はショックを受け、思わず「出ていってくれ!」とマリーをなじるのだった。
あれほど仲むつまじかったにもかかわらず、マリーとアレクセイの心は、いつしかすれ違いを見せてゆく。苛酷な現実の中でも、ひたすら自由を求めるマリーにとって、家族の生活を必死で守るアレクセイの姿は、体制に屈服しているように映ったからだ。
一方、祖母の死によって、住む部屋さえも失ったサーシャは、マリーの好意で、彼らと同居することになった。有望な水泳選手だったサーシャは、失意にくれ、チームから外されてしまうが、マリーは「才能を無駄にしないで」と彼を諭し、真冬の寒風吹きすさぶ河で、水泳の練習につきあう。両親を秘密警察に殺された過去を持ち、今や天涯孤独の身となったサーシャは「僕も国を出たい」と、ここでの生活に限界と絶望を感じていることを、マリーに打ち明ける。激しい河の流れに逆らって力強く泳ぐサーシャの姿は、いつしかマリーの希望の象徴となっていくのだった。
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