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フェリックスは自分が恋に堕ちたことを驚いているように見えます。そうした自分が信じられないというふうに!

PL「ローラは他の普通の女とはあまりに違うのです!フェリックスのような人間にとって、恋に堕ちるなどということは容易いことではありません。一生に一度しかないような出来事なのです。自分が求められ、捕らえられてしまうことなど、かつてなかったことです。そうすると彼にはもう、この力に抵抗することなどできなくなるのです。
そのうえ、ローラは悲劇的な、ひどくメロドラマ的な世界へと、まるで渦に巻き込むかのようにフェリックスを引きずりこんでいきます。彼女が謎めいたもので包み込めば包み込むほど、彼はローラに惹きつけられて止みません。
それは彼がマゾだからではなく、彼のまったく知らない、予想もつかない地点へと引っ張っていく彼女に激しい魅力を覚えるからなのです。男は誰でも謎に満ちた女を離したがりません……。
いつか彼女の秘密を暴くという、ただひとつの切望が満たされない限り、離れられなくなるのです。
“お前のことは難しすぎて判らない、だからバイバイするぜ”とは決して言えないのです」

切望というものが、この映画の本当のテーマかもしれませんね。
フェリックスがローラを切望するのは、彼女が未知の存在であり、手の届かない存在であり、踏み込めないものを感じさせるからです。切望、それは自分の中にないものを他人に求めるという探求だと思います。

PL「引き寄せられる力というのは事実、謎と魅力、とにかく打ち明けてもらえない言葉が寄り集まって作り出されるものだと思います。少しでも謎がなければ、切望などありえません。あまりに簡単に分かりあえたり、分かりすぎたりすれば、その人を手に入れたいという切望など生まれるはずがないからです。容易いことは、切望には繋がりません」

ラヴストーリーというものは、一般に込み入った障害があるものではないのでしょうか?

PL「簡単に成立するラヴストーリーならわざわざ映画にする必要などありませんよ」

歌手にもまた影があるのですが、この謎に満ちた男にもあらゆる幻想が働いているのでしょうか?

PL「しかし、この男は実はもっと平凡な存在だと思っています。確かに何と言ってもアラン・バッシュングが演じていますからね。
でも、彼はダンスホールの歌手なのです。歌い終われば、そのまま家に帰るという、自分が欲しい女の子をいつでも連れて帰れるような境遇ではありません。月賦で買ったシトロエンの大衆車のトランクにギターを入れて、ひとり帰宅するというような……。
まあ、少しオーバーかもしれませんが、でもダンスホールの歌手なんてそんなものだろうと思います。バッシュング自身がそれをとても上手く演じてくれています。多分に控えめな存在で、少しばかりブキッチョで、愚図といった感じ。ローラを探してやってきたのに、そのことを少し恥ずかしがっているとさえ見えるように。彼女になんて言ったらいいのかあまり分かっていないというような」

この歌手との過去は、ローラにとって意味があるのでしょうか?

PL「そうです、でもそれは一夜の関係なのです!
私は、ローラが映画のラストで打ち明ける話はすべて真実だと確信しています。ここで彼女は嘘をつくことを止めるのです。彼女は、この歌手との関係を少し恥じています。
“それから、あのダンスホールの歌手とジントニックを2〜3杯一緒に飲んだの。でも長くいたわけじゃないのよ、お互いの波長が合わないのが判ったから”。極めてありふれた、話にもならないような関係。それで彼が再び会いに来たときに、ローラは毅然と帰るようにと言うのです」

ラストでローラは付きまとっていた幻影を振り捨てて、自分本来の姿で生き始めます。もう嘘で身を飾ることはありません。
彼女には別な生き方をでっちあげる必要はなくなるわけですね。

PL「フェリックスに出会ったおかげです。
ローラが真に関心を抱いたのがこの男で、彼女の心を真に揺さぶったのもこの男だったからです。それで、嘘で固めた自分の姿をさらに徹底させ、極限まで持っていこうとし、途方のないことまで彼にさせる気になるのです。つまり殺人を犯させるという。これは彼女の人生で、また彼女が作り出したメロドラマじみた悲劇の人生の中でも、決してここまでは夢想していなかったことを、私は確信しています。
彼女はそれまで、誰かに何かを強要したことなど、決してなかったはずです。それをすることで、彼女の内面で、電気ショックに似た何か激しい、世界が逆転するようなショックが引き起こされたのです。
“馬鹿げたことはもう止めましょう、私がどんな人間かあなたに打ち明けるわ”。
彼女はあるがままの自分を愛してくれる男に出会ったのです。その男は彼女を信頼し、彼女もその男に初めて信頼できるものを見い出しました。もう自分を偽装する必要がなくなったのです。素顔のままでいられるようになったこのときから、彼女はあの厚い化粧を纏う必要が無くなるのです!」

彼女はフェリックスを試そうとしたのでしょうか?

PL「そうです。彼女はこの男に好意を抱いているものですから、どこまで彼が自分に付いてくるのかを知りたかった。自分の幻想の世界、悪夢のような世界へと入ってきてくれるかと。そこは彼女が仕掛けたゲームなのですが、これはとても危険なゲームといった方がいいでしょう。
そして彼女はそのことを自覚しています。自分が決してヒロインになれない小説を書き続けていることを」

ローラはもう愛を夢と混同しようとは思わなくなります。
フェリックスにとって、それは人生における大きな幸運になるわけですか?

PL「彼女はこのゲームをぎりぎりまで押し進めていきながら、そのことで彼を失なうようになるかもしれないということに気づくからです。映画の初めで、彼女がバンパー・カーから降りると、タバコに火をつけたりして、しばらくぐずぐずしています。そして立ち去るときにチラッと切符売り場の方、そこにいるフェリックスの方を見ます。
この瞬間、彼女は何を思ったのでしょうか。その前にもう、彼女はフェリックスが次の愛の犠牲者だと狙いを定めていたのでしょうか。それではこの出会いは、決して偶然ではなかったのでしょうか。
いいえ、私はそうは思いません。あの瞬間にローラは初めてフェリックスが自分に興味を抱いたことを知り、即座にゲームを開始し、夢想の物語を作り上げ、その物語の中へと入っていったのです」

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