私はヘンリー・ジェイムズの小説世界は
『金色の嘘』で描き尽くしたと思っています
−−『金色の嘘』がマーチャント・アイヴォリー製作のほかのエドワード朝時代(20世紀初頭)の作品、つまり『眺めのいい部屋』や『モーリス』『ハワーズ・エンド』とどのような違いがあるのでしょう?

「何といってもスケールや豪華さが違います。『ハワーズ・エンド』は裕福なミドル・クラスの物語でした。『眺めのいい部屋』や『モーリス』の舞台も、同じ階級でした。しかし、この作品は当時、最も豪華な屋敷に暮らしていた大富豪たち、極めてコスモポリタンなアメリカ人たちの世界が舞台になっています。物語は、イギリスやイタリアの上流階級に入り込んだ、ある富豪、にわか成金といってもいいと思いますが、その家族をめぐって展開します。当時、社交界や美術界の中心はヨーロッパの大首都、特にロンドンとパリにありました。これは、その時代を反映した作品です。ニューヨークでさえも後進地、僻地のように見られていたのです。だからヴァーヴァーのように、個人の精神の充足や芸術的飢えを満たそうとすると、ニューヨークを離れずにはいられなかったのです。ちょうど、ヘンリー・ジェイムズ自身、また彼の作品の多くの主人公たちがそうであったように」

−−どのような美術作品の影響が、映像的に反映されているのでしょうか?

「『金色の嘘』を映画化しようと思ったとき、というよりもそれ以前に、私は『ある婦人の肖像』や『鳩の翼』(いずれもジェイムズ作品)を映画化したいと思っていたのですが、そのときイメージとして私の頭にあったのが、ジョン・シンガー・サージェント(1856〜1925、イギリスに住んだアメリカの肖像画家)の絵でした。昔から私は彼の絵が大好きでしたが、ヘンリー・ジェイムズの後期の小説を映画化しようと思うまでは、それが自分の仕事に結びつくなどとは思ってもいませんでした」

−−では、ジェイムズとサージェントに共通するものとは?

「ジェイムズが描写する貴族や洗練された人たちと交わるアメリカの金持ちたちの世界を、サージェントはヴィジュアル的に描いているのです。二人とも南北戦争以前に生まれ、子供時代に長い海外旅行を経験し、大きくなってヨーロッパに移り住んでいます。しかも、それぞれイタリア、フランス、イギリスと、同じ学校で学んだり、同じ場所を訪れたりしているのです。そして二人は、自身の仕事のためにイギリスに居を構えた後で知りあい、生まれた国を離れた同じアメリカ人同士として友情を結んでいます。美術デザイナーのアンドリュー・サンダースは、サージェント以外にはホイッスラー、ボナールなどを参考にしていましたね。私たちはそのほかに、エドワード朝スタイルの富豪の屋敷や館の室内写真を集めまくり、美術や装置の設計プランに生かしました」