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この歌手の描かれていない部分について、どのような想像を?

AB「私自身歌手で、この道も長いものですから、こういう役の人間を知りすぎるほど知っているのです!だから、この人物がどこか謎めいたものを保つには、彼についてあまりいろんな状況を説明しない方が良いのです。本当に悪い人間なのか、人を殺そうとしているのか、何か脅迫めいたことをしているのか、それがはっきり判らないのですから……。映画はその点を曖昧にしていますから、観客にはさまざまな想像が可能です。
彼の外見はあまり特徴がなく、影が漂っているだけです。黒いコートのようなものを着ていますが、多分これしか持っていないのかもしれません。歌手としての成功など味わったことがないのでしょう。たとえ味わったとしても、つかの間のものだったに違いありません。ステージでは少しばかり輝いてみえるのですが、それは多分の過去の栄光の残り香のせいだと思います」


ローラとの関係はどのように?

AB「ローラは最後に、彼らの関係についてちょっと明かしますよね。ひょっとしたらひょっとした関係、お遊びよりもちょっと真剣なというふうに。こちらの方が身を引いたに違いないのです……。
歌手としてデビューしたばかりだったり、成功に近づいていると感じたり、またしょっちゅう地方回りがあるのですが、そういうとき恋におちることを警戒するものです。そのために歌手としての成功を手に入れることができなくなるのではと恐くなるのです。どこかで出逢った女の子と、一緒に暮すぐらいは問題ないのですが、それでも成功を脅かすのではと不安になってしまいます。彼もきっとこう思ったに違いありません。
“この女を背負い込んだら、今の状態から抜けられなくなってしまう。邪魔になるだけなんだ。彼女を捨てて、ひとりで出発するのが一番だ”と。
一方のローラは、彼の品の悪さにがっかりしたに違いないでしょう。彼の方はただ逃げることだけを考えていて、深刻な別れ話さえもなかったはずです。あるとき、不意に姿を消したのでしょう。彼女に恨みを残して……。それでもふたりは、あの田舎町で再会したときに、彼があれだけ率直に、あれだけ親密に話せるぐらいにお互いの心を通いあわせた時期があったはずなのです」


移動遊園地の賑わいはお好きですか?

AB「子供の頃、アルザスでよく行きました。辺鄙な田舎の村でしたから、それが唯一といってもいいアトラクションだったのです。
3〜4つの屋台とか、射的、綿菓子、回転木馬、本当に規模の小さいものでしたが、それでもないよりましで、嬉しかったものです。巡業に出ると、私はそうした移動遊園地の人間になったような気がするのです。町から町へと渡り歩くジプシーのように思えてきて、本当に楽しい気分になります。毎晩違った場所、違ったホール、いろいろと起きるごたごたを、初めて会う知らない人たちと一緒に解決する。その土地特有の雰囲気、毎日違うホテル、ええ、私は本当に大好きです!」


映画のために特別に“ダンシング・ローラ”という曲を作曲していますね。

AB「パトリスから、コーダー(曲の終わりの部分)のような曲を作って欲しいと言われたのです。“外”につけて、うまく終るような。
『フェリックスとローラ』には挿入曲が少なく、ごてごてしていないのは本当にいいセンスだと思います。お祭りの賑わい、ざわめき、射的の音、バンパーカー、回転木馬、それぞれの屋台から聞こえてくる音楽、それにぴったり映画の音楽が溶け込んでいます」


映画における音楽の役割について、どんな考えをお持ちですか?

AB「監督と作曲家の、運命的な出会いというのがあるものです。実にうまくいった結びつき、別けては考えられない関係。
たとえば、ヒッチコックと(バーナード・)ハーマン、セルジオ・レオーネと(エンニオ・)モリコーネ。作品としっかり結びついた歌や曲があります。
『真夜中のカーボーイ』で、ハリー・二ルソンの歌う“噂の男”が聞こえてくるたびに、私はわくわくします。また『パリ、テキサス』のライ・クーダーのギターとか。『2001年宇宙の旅』でのキューブリックの音楽の使い方の大胆さには驚かされました。宇宙基地が舞台となる未来の先取りの映画ですから、シンセサイザーのような音楽を期待しているのに、まった思いもかけないシュトラウスの音楽が流れてくるのですから!キューブリックは私に、音楽にも物語があること、映像の意味を変えることができるということを教えてくれました。音楽はすごい力を持っています。深刻な場面でも、それを喜劇にしてしまえるのです。
今、アメリカ映画では、45チューブの大音量で音楽が鳴りっぱなしですが、その疲れることといったら!
『フェリックスとローラ』では初めて音楽監督、エドゥアール・デュボワと仕事をしました。彼の役割は監督と作曲家の間で音楽のコーディネートをすることなのですが、アメリカでは、随分以前から、この仕事が存在していたそうです。大変合理的だと思いました。ひとりの人間がすべての音楽を責任をもって、後からオーケストラ用に編曲して繋いでゆくわけですから、音楽にまつわる連絡手段に問題が生じて紛糾することを避けられるのです。それには、あらゆるケースに対応する、あらゆる種類の音楽を知っていなくてはいけないという、まさに百科事典並みの知識が必要なのです」


撮影現場の雰囲気はどうでしたか?

AB「何と言っても、ルコントがとてもリラックスしていることに、本当に驚きました。
監督するという、すごい責任を抱えているのにですよ。本当に楽しんでいる様子で、石蹴りをしたり、いたずら小僧みたいにピョンピョン跳ね回ったりしているんです!生きてる喜びみたいなものを発散しているのです。これは遊びなんだよという感じですから、何だかすべてが簡単にできそうな気になってしまうのです。本当に気分良く仕事ができました。俳優やスタッフに自信を与えてくれるのです」


愛があれば、人は何でもできる」とローラが言いますが、それについてはどう思いますか?

AB「私もその通りだと思います。
愛がなければ、欲望がなければ……私は完全に落ち込みます。何をする気にもなれないのです。そういう意欲のない時期が訪れることがあって……。ひどい状態になります!欲望、愛が戻ってくるたびに、私は救われたような気分になります。私には馬の人参のような餌がないと走れないのです。おいしかろうがそうでなかろうが、とにかくアイディアを生み出すため、何かをするエネルギーを作り出すために。
さて、愛のために人を殺せるだろうか?新聞はそれを証明するような事件を小さく報道していますが、それと同時に、世間にそういった愛に絡んだ事件が少なすぎることに驚くこともできると思います……。司法はそういう犯罪によく情状酌量という処置を適用しますからね。でも……それがいいことなのか、馬鹿げたことなのか?私には判りません」

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