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解 説 また、ヘンリー・ジェイムズ作品といえば、さまざまな葛藤を抱えたヒロインたちのドラマが魅力のひとつだ。 才色兼備でありながら、貧しさゆえに失った愛に焦燥するシャーロットを演じるのは、『宮廷料理人ヴァテール』のユマ・サーマン。“現実的でありながら、ロマンティックな面も持ち併せている”という、いわば理想的な女性が、愛の相克の狭間で次第に追いつめられる心の揺れを説得力たっぷりに演じ、「サイレント期の映画女優にも似たオーラを放っている」と絶賛、今まさにサーマンの時代の到来を宣言してみせる。また今年はランコムの香水「ミラク」のイメージキャラクターとしても世界中で活躍、一女の母とは思えない彼女の美しさは、日本でもひときわ大きな脚光を浴びることは、必至だろう。 夫の不貞に疑惑を抱きながらも、愛する父に心配をかけないよう心を砕くマギーには、夏の超大作『パール・ハーバー』で世紀のヒロイン誕生と注目を集めるケイト・ベッキンセール。一見、世間知らずのようでいて、“愛のために”すべてを耐え抜くという、登場人物中、最も芯の強さを持った女性像を完璧に演じ切り、とりわけ“金色の盃”をめぐって妄想がエスカレートしていくクライマックスは圧巻だ。 そしてシャーロットとアメリーゴの過去を知りながら、それをマギーに打ち明けなかったことに良心の仮借を抱くファニーを、『バッファロー'66』の母親役が記憶に新しい実力派女優アンジェリカ・ヒューストンが貫録たっぷりに演じるなど、豪華女優陣が華麗な演技の妍を競う。 対する男優陣も個性派揃いだ。労働者階級出身で、“アメリカで最初の億万長者”といわれるアダム・ヴァーヴァーを演じるのは、自ら製作も務めた『白い刻印』でオスカー候補となり、ここ数年、ますます円熟味あふれるニック・ノルティ。衝動的な情熱と娘に対する父性愛を、“確信を持つまで動かない”という沈黙の裡に表現し、堂々たる名優ぶりを証明してみせる。また富豪の娘マギーとの打算的な結婚を決意しながらも、いつしか愛の本質を知り、マギーについた嘘を“恥”とまで言い切るアメリーゴ公爵に、『理想の結婚』のジェレミー・ノーザム。これまでコスチューム劇で典型的な英国紳士を演じてきた彼だが、ここではローマの没落貴族を堂に入ったイタリア訛りで演じ、“ローマに焦がれる”誠実なラテン男の魅力を遺憾なく発揮している。さらにファニーの夫ボブ役に、イギリス・フリーシネマの名優で、近年バイプレイヤーとして渋味を増すジェイムズ・フォックスが一見、とぼけているようでいて、実は男女の機微に通じた洒落者として、しっかり脇を固め、絶妙のアンサンブルを構築している。 また特筆すべきは、オープニングで語られるルネッサンス時代のアメリーゴ公爵の先祖の物語だ。義母と息子が不義密通し、処刑されたというエピソードは原作にはないものだが、それはシャーロットとアメリーゴの曖昧な恋愛関係のゆくえを象徴するものとして印象的な効果をあげている。映像的にも屋敷に差し込む自然光と間接照明によって撮影が進められたこともあって、陽光があふれ眩いばかりの昼間のシーンとは対照的に、夜の闇の中、ろうそくの灯がほのかに交錯することで男女の秘められた愛が炎となって燃えあがるのを暗示するなど、まさにジェイムズの張りめぐらせた「嘘」と「真実」を、アイヴォリーならではの映像感覚として画面に息づかせているのはさすがだ。 スタッフも、撮影のトニー・ピアース=ロバーツ、音楽のリチャード・ロビンス、美術デザインのアンドリュー・サンダース、衣裳デザインのジョン・ブライトと、これまでアイヴォリー作品で手腕を発揮したマーチャント・アイヴォリー組とも言うべき実力派が揃い、20世紀初頭のニューヨークをとらえた当時の記録フィルムが、自由の女神や工場、炭坑風景など、まさにアメリカ現代史の断片として、時代の揺籃期の見事な証言となっているのも見逃せない。 なお、完璧のように見えて実はキズが隠されていたという、物語の暗喩として印象的に登場する、水晶に金箔を施された“金色の盃”は、メトロポリタン美術館に所蔵されている1200年代のヴィザンチン様式の盃をモデルにレプリカしたもので、まさに完璧主義のアイヴォリーにふさわしい贅をつくしての再現も話題を集めた。 21世紀の第一歩を踏み出した現代で、20世紀はじまりの豪華絢爛たるイギリスの上流社会を味わえる贅沢さを、『金色の嘘』で心ゆくまま堪能していただきたい。 |